【食物語・喜多方のアスパラガス】 寒暖の差が育む甘み 口コミで人気

見取れてしまうほど立派なアスパラガス。畑から延びる長さ30センチ近くに達するその姿を「芸術の域」とするのは行き過ぎか。喜多方市のアスパラガスの出荷量は東北で有数。全国的にも注目を集める食材だ。
「関東圏を中心においしさが口コミで広まり、注文が増えてきた」。同市岩月町の農家小林絹代さん(57)が地元産の魅力を教えてくれた。何と言っても寒暖の差から生まれる「甘み」と「みずみずしさ」が特長。「焼いたら甘みが凝縮される。天ぷらもいい。肉巻き、春巻きもある」とのお薦めの食べ方に食欲がそそられる。
アスパラガスは春から夏にかけて出てくる新芽を食べる野菜で、収穫時期は3月下旬から9月上旬にかけて。種から育てると本格的な収穫まで約3年かかるとされる。この時期は一日に数センチほど成長する。そのため、小林さんは毎日朝と夕の2回、収穫している。
◆震災で再出発
小林さんが会社員から農業の世界に飛び込んだのは約10年前。「喜多方を日本一のアスパラ生産地にしよう」という機運が高まっていた時だった。右も左も分からない状態でスタートを切り、現在は約20アールの畑でグリーンアスパラガスなどを栽培。農家レストランの経営、グリーン・ツーリズムの受け入れにも力を注ぐ。
東京電力福島第1原発事故の影響などでアスパラガスの価格は東日本大震災前の7割ほどにしか回復していないという。右肩上がりだったグリーン・ツーリズムの参加者数は2011(平成23)年がゼロ。それでも小林さんは「ショックも大きかったが、今はゼロからスタートすればいいという気持ちになった」と前向きに捉えている。
◆脇役かつ主役
収穫されたアスパラガスは新鮮なうちに市内の直売所やスーパーなどに出荷される。
会津の郷土料理などを提供する同市梅竹にある飲食店「会津 田舎家」。店主の佐藤定喜さん(59)はアスパラガスがメインのフルコースの提供を「来年にも始めたい」と考えている。佐藤さんに自慢の料理を作ってもらった。「東京の三つ星レストランくらいにしか出回らないかもしれない」。まずは、1本300円するホワイトアスパラガスを使った山塩焼き(税別850円)。トウモロコシのような甘みが口いっぱいに広がり、記者が子どものころから抱いていた「アスパラは苦い」という苦手意識は一瞬で消え去った。やわらかくて溶けるような食感。北塩原村の名産「山塩」で一段と際立つ甘みに驚かされる。まさに絶品だ。続いてはアスパラガスのバター焼き(同650円)。香ばしくて、しっかりとした歯ごたえが印象に残る。トマトと一緒に盛り付けたサラダ(同550円)はアスパラガスの存在感に目が留まる。
喜多方産のアスパラガスは7、8年前にJR東日本の車内誌「トランヴェール」に掲載されたことで、注目されるようになった。佐藤さんは「観光客が店に押し寄せた」と当時を振り返る。「アスパラガスは感動を与えられる食べ物。脇役であるのに、主役にもなれる実力がある」。その言葉に納得させられた。
(写真・上)20~30センチに育ったアスパラガスを収穫する小林さん。旬の時期のアスパラガスは一日で数センチ成長する(写真・下)手前がホワイトアスパラガスの山塩焼き。奥がジャガイモや会津地鶏などと一緒に焼いたバター焼き
≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪
【「夏どり」のシーズン】喜多方のアスパラガスは露地やハウスで栽培されている。生産時期は春と、夏から秋に分かれ、6月ごろに2期目の「夏どり」に切り替わる。JA会津よつばが経営する喜多方市岩月町の農産物直売所「いいでの四季」では地元農家が生産したアスパラガスなど新鮮な野菜を販売。アスパラガスの価格は太さなどによって異なり、現在は一束(155グラム)で155~260円。営業時間は午前9時~午後5時。問い合わせは同直売所(電話0241・22・9100)へ。
【グリーン・ツーリズム】 グリーン・ツーリズムは農山漁村地域の自然や文化に触れ、地元の人との交流を楽しむ旅。喜多方市が2006(平成18)年に「グリーン・ツーリズムのまち」を宣言した。同ツーリズムにはグリーンアスパラガスや夏野菜の収穫、そば打ち、漆器の蒔絵(まきえ)など多彩な体験メニューが用意されている。農家民宿、農家レストランも市内に約40カ所あり、手作りの郷土料理が堪能できる。問い合わせはNPO法人喜多方市グリーン・ツーリズムサポートセンター(電話0241・24・4488)へ。
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